目に見えないし、さわれないもの。
愛、幸せ、いろいろ浮かびますが、
香り というのもなかなかつかみどころのない奴です。
宮古島では日々、季節を感じる香りがします。
製糖期、製糖工場のそばでは
きびの煮詰まっていく若草のすえた、それでいて甘い香り。
これでジェラートを作りたい、
重ための肉料理のソースに少し使いたい、
などと思いをはせながら車で走ります。
春めいてきた朝、家の玄関を開けたとたんに
元気な芝が風に泳いだ、生ぬるさをまとった夏のはじまりの香り。
不思議と小学生の8月末を思い出します。
遊び疲れた午後のけだるさと、長い休みが終わってしまう寂しさ。
高校生の下校時間、
すれ違う子たちの健康でさわやかな髪の毛の香り。
あ、これはあまり一生懸命嗅いではイケナイですね。
故郷荒川の土手でただ一度すれ違っただけの、
強烈な一目惚れ。一瞬の恋を、香りが思い出させるんです。
料理でも、舌で感じるのではないものが
意外と大切なんだな、と、気付いた時期がありました。
噛んで、嗅いで、どんどん奥行きが出てくる。
おいしい料理ってそういうものが多いな。
味が強いわけではないのに印象に残る。
そう思います。
まったく振り向いてもらえなかった香織ちゃん、
つかみどころのないあの子、
未だに印象に残っているのは、やっぱりそういう事だったんですね。